住宅ローン問題支援ネットの高橋愛子です。
最近、ある経営者の方からこんな相談がありました。
「経営難で、住宅ローンを払い続けるのが難しくなってしまったが、妻がどうしても自宅を売りたくないと言います。子どもに売却はできないでしょうか」とのこと。
親がローンを払えないため、子どもが親を助けて家を買い取り、ローンを払っていく、ということですね。
結論から言えば、親子間での不動産売買は可能です。
ただし、親子間売買は不動産取引のなかではイレギュラーな方法で、税務の面などでもさまざまな注意点があります。
今回は、親子間売買についてお話ししていきますね。
もっともハードルが高いのは資金調達
親子間売買(お子さんではなく、売買の相手が親族の場合は「親族間売買」といいます)の注意点は、大きく分けて6つあります。
①資金調達の問題
一般的には、親から子へ不動産が渡る時というのは「相続」か「贈与」の場合がほとんどです。そのため、資金調達がもっともハードルが高いと言ってもいいと思います。
親が住宅ローンを借りている金融機関からすれば「何のために親子間売買を行うのか?」という疑念が生じるもので、こんなふうに思われてもおかしくありません。
〇住宅ローンという低金利の融資を利用して、資金を別の目的で使うのではないか?
〇将来の相続を見据えてもめ事の心配があるため、売買しておくのではないか?
実際、多くの金融機関は親子間売買を住宅ローンの対象外にしていますし、保証会社も親子間売買の場合は扱わないところが多く、保証がつかないために融資が受けられない、というケースもあります。
ノンバンクは親子間売買の住宅ローンを扱っていますが、これは一般の金融機関と審査方法が違うためフルローンを組むのは難しいのに加え、金利や手数料が高くなります。
売買価格と税金は表裏一体の関係
②売買価格の問題
親子間だから安い価格で売買できるのでは、と思う方は多いのですが、これは間違いです。
親子間でも、取引は「時価」。安い価格で売買することを「低廉譲渡(ていれんじょうと)」といい、時価との差額分が子への贈与とみなされて、子に贈与税がかかってしまうのです。
さらに無担保物件なので、適正価格で取引しないと金融機関に対しての詐害行為とみなされる可能性もあります。ここは絶対に注意が必要です。
③譲渡所得税の問題
自宅を売却した場合、通常3000万円までは譲渡所得税の特別控除が使えます。
でも親子間売買については対象外。
元々の家の購入金額が安かったり、相続で取得した家で取得価格がない場合は、売った際の金額が高ければ、その利益分に対してまるまる所得税がかかってしまいます。
④住宅ローン控除の問題
親子間売買では、たいていの場合親子が同居している、つまり住所が同一であるため、住宅ローン控除の対象になりません。
また、子の住所が違い、かつ購入する親の家に子が住まない場合はそもそも住宅ローンの対象にもならないので、基本的に、親子間売買では住宅ローン控除は受けられないと思ってください。
債権者の同意は必須
⑤任意売却の場合の問題
仮にオーバーローン状態で、親子間売買を任意売却で行う場合には、債権者(金融機関)の説得がより難しくなります。
オーバーローンは不動産を売っても債務が残る状態ですから、安く子どもに売却して自分も住み続ける、という理屈は、債権者にはなかなか通りません。詐害行為を疑われやすくもなります。
子どもに売却しても価格は時価であることなど、債権者にきちんと説明し、事前に同意を取ることは必須です。
⑥資産隠しの詐害行為の問題
債務を整理するために自宅を安価で子どもに売却してしまうと、債権者である金融機関から「差押え逃れのための資産隠し」とみなされ、債権者が「詐害行為取消権」を行使して訴訟に発展することがあります。
また、住宅ローンが残っていて抵当権が設定されている場合は、抵当権を残したまま親子間売買で名義だけ変えても、債権回収のための差押えからは逃れることはできません。
不動産はごまかしの利かない資産
このように、実際に親子間売買を行うとなると、実に多くのことが問題になってきますから、売買を検討し始めるタイミングがどの段階にあるのかも、正確に把握する必要があります。
物件の査定から始まって、適正価格はいくらなのか、現在リスケはしているのか、
ローン滞納は発生しているのか、親子間売買に子どもは本当に協力的なのか――。
段階によっても気をつけるポイントは違ってきます。
今回ご相談にいらした経営者の方のように、経営難、事業再生、といった話になってくると、「経営者の不動産」というのは問題になりやすいのです。
不動産は、謄本を見ればその来歴がほぼ一目瞭然のため、資産としてのごまかしが利きません。
親子間売買をするにしても、焦る気持ちに押されて決して自分たちだけの判断で安易には行わないでください。
弊社では「住宅ローンが払えない」というご相談はもちろんですが、親子間売買、親族間売買などについても、ご相談内容に適したアドバイス、専門家の紹介も行っています。まずは何でも、お気軽にお問い合わせください。
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「55歳から」という年齢をあえてタイトルに入れたのは、定年前の少しでも早いうちに老後に向けての対策を備えたほうがよいという意味を込めています。必ず55歳から、ということではありませんが、早ければ早いほど解決策の幅が広がります。
老後の住宅ローン問題や老後の資金計画に少しでも不安がある方に、ぜひ読んで頂きたいと思います。